福岡高等裁判所 昭和27年(う)1961号 判決
本件起訴状によれば公訴事実は「被告人は昭和二十六年十一月二日午前三時五十五分頃福岡市極楽寺町千代田銀行福岡支店新築工事竹中工務店作業所材料置場に於て竹中工務店所有西野弘行保管にかかる鉄筋十三本を窃取したものである」としてその訴因を明示し、罪名、窃盜、適用すべき罰条として刑法第二百三十五条を掲記しており、記録上検察官において訴因、罰条の追加、撤回、変更の請求をしたこともなく、又原審裁判所において訴因、罰条の追加、変更を命じた形跡がないのに原判決が右公訴事実に対応する事実として「被告人は昭和二十六年十一月二日午前三時五十分頃帰宅すべく福岡市極楽寺町千代田銀行福岡支店新築工事竹中工務店作業所置場(道路場に仮設したもの)附近の道路に差しかかつた際道路上にあつた馬蹄型の鉄筋十三本を発見し、占有を離れた他人の物であることを認識しながら、不法に領得する意思でこれを肩に担き、そこから同町亀岡炭鉱福岡支店前まで運搬して横領したものである」旨認定し、これを刑法第二百五十四条罰金等臨時措置法第三条第一項に問擬していることは所論のとおりであり、しかも、記録上原判決認定にかかる右の事実が予備的に又は択一的に起訴されたことは全く認めることができない。しかして刑事訴訟法第二百五十六条第三百十二条によれば、起訴状に訴因を明示して記載された公訴事実と判決において認定した事実とが、たといその基本的事実関係を同じうし公訴事実の同一性を害することがなくても、判決に認定した事実は起訴状に予備的又は択一的に記載されていない限り検察官が訴因の追加、撤回又は変更の請求をするか或は裁判所が審理の経過に鑑み訴因の追加又は変更を命じた場合でなければ、裁判所は起訴状に明示された訴因と異る罪となるべき事実を認定することは許されないものと解すべきである。さすれば原判決の認定した原判示事実は本件起訴状に訴因として明示記載された公訴事実とその基本的事実関係を同じうし公訴事実の同一性を害するものでないがその訴因を異にすることが明かであるから前説示のごとき訴因の追加、撤回又は変更の手続を履践することなくして右判示事実を認定した原判決は結局訴訟手続に法令の違反があつて審判の請求を受けた窃盜事件について判決せずして、審判の請求を受けない遺失物横領事件につき判決をしたものといわねばならない。原判決は刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第三号により破棄を免れない。論旨は理由がある。